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林正浩さん、林久美子さん

けーきやペパン
お客様はもちろん、農家のみなさんにとっても 「おいしい発見」につながる菓子店でありたい。

国道 153 号沿いに現れる、小さなケーキ店。明るい店内にはいつも色とりどりのフルーツを使ったケーキが並んでいます。まつかわでも数少ない、生ケーキを扱う洋菓子店「けーき やペパン」は2016 年に開業、くだものの里・まつかわらしいくだものを使った菓子の数々で人気を博しています。2019 年にはふるさと納税返礼品にも登録された、まつかわ産りんごのお菓子「ポンム」も好評。「旅の方にもお土産に選んでいただきたい」と話すお二人に、思いを聞きました。(2020年3月)

 

インタビュー動画(2分38秒)

地域の恵みを、お菓子に変えて

 

──とても居心地の良い店内ですね。お客様も途切れずにいらしていて、すっかりまつかわ のみなさんに愛されるお店であることが伝わってきます。

 

林正浩さん(以下、正浩)  ありがとうございます、お店をはじめて 4 年目になりますが、 カフェスペースもお持ち帰りも、幅広い年齢の方にご利用いただいています。

──東京の菓子店で働いていたそうですが、まつかわでお店を開いたきっかけは、どのよう なものだったのでしょう。

 

正浩 ここへ来たのは、妻の実家がまつかわだったからですね。妻とは同じ職場で出会い、 東京に暮らしていました。けれど、子どもが生まれたことで引越しを考えるようになって。 妻もまつかわで育って、私も実家が安曇野なので、マンション住まいでの子育てに窮屈さを 感じてしまったんです。

引っ越してきても、しばらくはこちらの菓子工房で勤め人として働く予定でした。しかし偶然に、ここの土地を譲ってもらえるということになって。こちらへ来て 1 年という早さで、 店を構える運びとなりました。

──色とりどりのフルーツをたっぷりと使った生ケーキがとてもおいしそうです。地元のフルーツが多いのですよね。

 

正浩 はい。店のコンセプトの一つとして、フルーツメインの生菓子を出すお店にしようと 決めました。実は、妻の実家もりんご農家なので、いわゆる規格外のりんごの活用もしたいと思いましたし、このまちにはくだものの⽣産者さんがたくさんいらっしゃいますから、⾃分の作る菓⼦でくだものの新しい魅⼒というか、⼀⾯を発⾒してもらえたらと考えたんです。当初から今も、主⼒商品は妻の実家のりんごを使ったタルトタタン。年間を通して提供できるように、旬の時期にまとめて煮りんごを仕込んでおくなどの⼯夫をしています。

店イチオシの「タルトタタン」。じっくりと煮込まれたりんごはやわらかで、サクッとした タルト生地との食感のコントラストもたのしい

 

素材の力を生かすこと、引き出すこと

 

──菓子職人としてみる、この土地の魅力はなんでしょう。

 

正浩 東京にいると、なんでも一通り食材は手に入りますよね。正直、地方ではなかなか入 ってこないものもあったり、不便さもあります。けれどやはりここでは、季節ごとに旬な食材が身近です。とくにくだものは、市場で流通させるのはむずかしいような完熟のいい状態のものを使えるので、この素材のよさを生かしたお菓子を作りたいなと思います。

また一方で、シンプルな食べ方だけではない、素材の力の引き出し方もしてみたいと思いま す。以前、1 年ほどフランスに菓子留学をしていたのですが、ヨーロッパではりんご一つとっても使い方にすごく柔軟性があるんですよね。「こんな食べ方もできるんだ」、というよう なお菓子が作れたらと、日々研究をしています。

 

──ふるさと納税返礼品にも登録された焼き菓子「ポンム」も、そうした思いから生まれたものでしょうか。

 

正浩 はい。ある程度日持ちのする焼き菓子を作りたいと思ったときに、バターサンドやレ ーズンサンドが思い浮かんだのですが、レーズンだと地元っぽくない。りんごに置き換えて できないかというのが発想の原点です。一度ドライにしたりんごをさらにワインと煮込んで味わいを凝縮されたものが挟んであります。ぜひ、旅行でみえたみなさんのお土産にも選 んでいただけたらうれしいですね。

新商品の焼き菓子「ポンム」。バタークリームにりんごのほのかな酸味が好相性。原材料の 塩にも隣の大鹿村で採れた「山塩」を使用するこだわりぶり

 

ペパンは「種」の意味。お客様の幸せの種になれたら

 

──妻の久美子さんから見て、正浩さんのお菓子はどのようなところが魅力でしょう。

 

林久美子さん(以下、久美子)  えっ、普段そんな話を直接伝えたことはないんですけれど ……! 発想が柔軟なところでしょうか。私も、以前はパティシエをしていたのですが、夫 のように日々研究をして、柔軟に素材を見て生かしていくというのはなかなかできないなと思っています。なので、今は私はお菓子は作らず、もっぱら「味見の門番」を担当してい ます(笑)。

正浩 お菓子を求めにいらっしゃるのは女性のお客様が多いので、妻のアドバイスはとても参考になりますし、店頭での応対も含めて大切な役割を担ってもらっています。

 

──お店をはじめたころは、お子さんもまだ小さくて「子連れ出勤」も多かったとか。

 

久美子 はい。厨房の奥に小さなベビーベッドを置いて寝かせておいたり、おんぶして応対させていただいたこともありました。お客様にはご迷惑をおかけしましたが、ここにいらっしゃるみなさまとてもあたたかくて、常連さんが「抱っこしていてあげるわよ」と、箱詰めの間あやしてくださったり。改めて、この土地のみなさんのやさしさを実感する日々です。

 

──今は地域の方の利用が多いとのことですが、旅する方にも立ち寄っていただきたいで すね。

 

正浩 ぜひ。カフェスペースで、⽣ケーキでもまつかわのくだもののおいしさを味わっていただけたらうれしいですね。もちろん、お子様連れも⼤歓迎。⽇持ちのする焼き菓⼦も常時ご⽤意していますから、お⼟産にお選びいただきたいですね。

正浩 そうそう、私たちの店名のペパンは「種」という意味なんです。ロゴには、⽣産者の思いの種と、作り⼿である私たちの思いの種が合わさり、そこからお客様に幸せが芽生えたら……という願いを込めています。旅の途中にほっとひと息、休憩していただいて、幸せの種が芽⽣えるような時間をすごしていただけたら、うれしいです。どうぞお気軽に、お越しをお待ちしています。

はやし・まさひろ

安曇野市⽣まれ。菓⼦専⾨学校を卒業後、パティシエの道へ。東京とフランスで経験を重ね、2015 年に妻・久美⼦さんの実家であるまつかわへI ターン。2016 年に「けーきやペパン」を開業。地元のくだものを⽣かしたケーキや、素材にこだわった焼き菓⼦などで⼈気を博している。

はやし・くみこ

松川町⽣まれ。東京でパティシエとして活動し、「けーきや」の屋号で菓⼦店を営んでいた経験も。結婚を機に菓⼦づくりは夫・正浩さんに任せ、「けーきやペパン」では主に商品企画と接客を担当している。