Zine
池田龍珠さん
忙しければ忙しい方ほど、ご参加いただきたいプログラムです。
荘厳な空気に満ちた伊那谷の寺で、瞑想・写仏を行い、癒しのひとときを──。まつかわには、旅行者も受け入れてこんな取り組みを行う寺院があります。住職の穏やかな人柄と、体験後のおいしいコーヒーも好評。モニターツアーを行なったこの日、住職の池田龍珠さんに、体験プログラムに込めた思いをお聞きしました。(2020年3月)
インタビュー動画(2分59秒)
日常を離れ、自分自身を覗き込む時間に
──ここにいるだけで心が洗われるような、気持ちのよいお寺ですね。まずはこの場所のご紹介からお願いいたします。
池田龍珠さん(以下、池田) 長光寺と申します。宗派は日蓮宗です。もとは飯田市にありましたが、故あってまつかわに移転して、今に至ります。過去に火災があり書類が消失してしまい詳細はわからないのですが、550年ほどまえの創建ではないかといわれています。現存している建物でも、いちばん古いものは元禄時代のものがございます。
――改めて、この「お寺で瞑想・写仏体験」はどのようなプログラムなのでしょう。
池田 文字通り、瞑想と写仏の二つをここ長光寺にて体験していただく、2時間30分ほどのプログラムです。
まず瞑想は、マインドフルネスという理論を取り入れて行なっています。マインドフルネスとは「注意集中」という意味。では何に注意を集中するかというと、呼吸に集中していきます。呼吸は、人が無意識に行っているものですよね。無意識の世界に意識を集中することで、普段の頭の中、心の内を占めている「意識」の世界を少し離れてみよう、という試みです。
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──無意識に意識を向けるというのが、興味深いですね。
池田 私たちは日々、いろいろな意識に支配をされていますよね。過去の出来事、未来のこと、責任、義務、立場……。つねにそういったものに急き立てられて追われながら生活をしているのがほとんどの方だと思います。そうしたなかでは、本当の自分を意識しているかというと難しいのではないかと思います。ここですごすひとときを通じて「自分自身を覗き込んでみませんか」、というのが、瞑想体験のめざすところであり、マインドフルネスの一番の目的だと思います。自分自身を実感してもらう、そんな時間になればと思っています。
「気持ちが楽になった」はじめての瞑想体験
──この「マインドフルネス」の理論をもちいた瞑想体験をはじめたきっかけには、ご自身の体験があったそうですね。
池田 はい。今から6年前に、大病をしまして。病院のベッドでただ寝ているだけの時間をすごしていたとき、まさにいろいろな意識に支配されたんですね。これから先のこと、過去のこと、仏門に入った身ですが死の恐怖も頭を渦巻きました。その、さまざまな思いの量が増えれば増えるほど、病室にいることが苦しくてつらい時間になりました。そんなときに、ある本でマインドフルネスの瞑想に出あいまして。試してみたところ、ずいぶんと気持ちが楽になったんです。
そもそも瞑想の元になるのはお釈迦様の教えですし、仏教を広めるという意味でも、いろんな方に知ってもらいたいと考えるようになりました。
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──写仏体験は、どのようなものですか?
池田 仏さまにちかづくことですね。仏さまに手を合わせる、拝するということでも仏さまに近づくことはできますがもう一歩進んで、自ら書いてみる。これにより、一層近く感じる、そして信仰心を深めましょうというのが写仏の目的です。
──これまで参加された方からは、どのような感想がありましたか。
池田 イライラしなくなったとか、怒らなくなった、という言葉でしょうか。気持ちがすっと楽になった、爽やかな気持ちになれたとおっしゃる方は多いですね。ただ、瞑想の実感が見えてくるのは数日後ということもあると思います。体験後のことも、今後はお聞きしたいですね。
変わらない自然。大きな谷に、ホッと癒されて
──これから、どのような方に、このプログラムにご参加いただきたいですか。
池田 忙しい方でしょうか。ストレスの多い方、自己を見つめなおす時間がなかなか取れない方に、ここで一度立ち止まって、走っている速度にブレーキをかけていただけたらと思います。マインドフルネスはなにもしないこと、瞑想は何もしないことでゆっくりと実存感を味わっていただくものです。忙しければ忙しいほど、ストレスが多ければ多いほど、なにか感じていただける時間になるのではないかと考えています。国内はもちろん、海外からのお客様へのプログラム作りも、今後しっかりと行なっていきたいですね。
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──もちろん瞑想はどこにいてもできることだとは思いますが、伊那谷のこの環境のなかで行う、ということもまた、大きな意味がある気がします。
池田 本当にそうですね。私自身、学生時代には毎週末、伊那谷と東京を往復する生活を送っていました。高速バスで、諏訪湖を折り返して辰野から伊那谷に入ってくると、なんだかとてもホッとしたものです。それはおそらく、ここで生まれ育ったからというだけではなくて、ここはなにかそういう力を持っている谷だと思うんです。
気候のせいもあるのか、方言も丸いし、人もまるくあたたかい。この空気や、ゆったりとした時間の流れのなかで行う瞑想・写仏体験は、より一層意味深いものになると思います。
──ご住職にとって、伊那谷の魅力とはどのようなものですか。
池田 いちばんの魅力は、変わらないことではないでしょうか。たとえビルや建物が多少変わったとしても、この伊那谷の特別な「地形」というものは、変えようがないですよね。都会に行くと、ビルが建ったり壊されたりであっという間に景色が変わってしまうことがありますが、山の景色、自然の地形は変わらない。そこもまた、ホッとする要因のひとつかなと思います。そんなこの土地の恵みを活かしながら、ここ長光寺も開かれた寺でありたい。ここで体験プログラムを行うことで地域の活性化に寄与できるならぜひ、という気持ちで、みなさまのご参加をお待ちしたいと思います。
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いけだ・りゅうじゅ
日蓮宗香應山長光寺住職。2014年より、「瞑想写仏体験プログラム」を開始。そのほか冬季には寒修行の体験も受け付けたり、ミュージシャンを招いたミニコンサートを開催するなど、開かれた寺院としてさまざまな活動を行なっている。
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