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大島崇さん、北沢毅さん、米山博洋さん
松川町で農家を継ぐ。次世代の若手農家「若武者」たち
松川町は、果物狩りの観光農園をはじめとする農業が盛んな地域です。今回は松川町の若手農家団体「若武者」を代表する3名にお話をお伺いしていきます。皆それぞれ、自身の意思で実家の農園を継ぎ、各々のスタイルで松川町の農業を盛り上げています。農業の高齢化が社会問題となっている中、積極的に後を継ぐ若者が多い松川町。松川町の農業について若手農家3人にお話をお聞きしました。(2020年3月)
インタビュー動画(5分42秒)
観光農園から作業受託まで。それぞれの分野で活躍する若手農家3人
──まずは皆さんがどのような農業をされているのかお伺いしてもよろしいでしょうか。
北沢毅さん(以下、北沢) 僕は昨年、「フルーツガーデン北沢」の4代目として就農したばかりです。今はりんごの栽培と広報を担当しています。りんごを売るだけではなく、どうやってお客さんにファンになってもらい、楽しんでもらえるかを軸に営業をしたり、SNSでの発信をしています。今年からはいよいよシードルの自家醸造も稼働させていきます。現在、28歳です。
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大島崇さん(以下、大島) うちでは主にお米と干し柿を栽培しています。お米の品種はコシヒカリとミルキークイーンを。その他、地域の方の田んぼの作業受託をしています。春の苗づくり、代掻き、田植えから始まり、秋は稲刈りが主な作業です。作ったお米や柿は、個人販売や直売所、あとは業者に卸したりしています。現在37歳で、昨年まで「若武者」という松川町の若手農家の集まる団体のリーダーをしていました。今回のメンバーも皆、「若武者」の仲間たちです。
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米山博洋さん(以下、米山) 主に、さくらんぼ、ブルーベリー、梨、りんごを栽培しています。観光農園としてはさくらんぼとブルーベリーがメインになります。昨年は松川町のフジの品評会で賞もいただき光栄です。現在、25歳なのでこの3人の中だと最年少になりますね。
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自然と後を継ぎたくなる、松川町の農業の魅力
──それぞれの農園の特徴について教えていただけますか?
北沢 フルーツガーデン北沢では、数時間畑に入って、果物を採って終わりではなくて、体験に特化した観光果樹園を目指しています。実はうちの農園では、あえて木と木の間隔を広くしているんです。そうすれば、ここで昼寝をしたり、BBQをしたり、果物のない時期でもりんごの花の下でピクニックをしたりできるんです。
こうして農園のファンになってもらうための仕組みを作っています。その一環で今年からはシードルの醸造所もでき、今年からいよいよ発売開始です。休日に何をするか迷ったら、あのフルーツガーデン行こうよ!と1日遊べるような場所にしていきたいです。
大島 うちは作業受託もしているので相手が地元の農家さんなんです。なので、地元の農家さんのファン作りや、地域の人から信頼をいただけるようにと思っています。うちでは奥さんも大型機械の免許を取得して、ふたりで畑仕事をしているので、女性ならではの視点や活動も特徴かなと思います。
平成28年には、新嘗祭でお米を献上させていただいたことがあるんです。土作りにもこだわっているのですが、それだけではなく、地域の方から信頼をいただいていたからこそ実現できたことだと思っています。
米山 うちは観光農家としてやっていますが、まず一番大事にしているのが「質」です。美味しいものをつくるのは当然のことですが、ここでしか食べられない「美味しいもの」をという思いでやっています。
中でもりんごの枝をどのように切って育てていくのか、という「剪定」にはこだわっています。今もなお、師匠の元で剪定について学び中です。昨年は賞をいただけたので、だんだんと結果に繋がるようになり自信もついてきました。
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──皆さんはなぜ、農業を継ごうと思ったのでしょう?
北沢 両親が楽しそうに農業している姿を見てきたので、いつかはやりたいなと思っていました。昨年まで大手の証券会社に勤務していたのも、ゆくゆく農業経営のヒントに繋がるかなと思ったからこその選択。名刺一つで経営者の方に会いに行ける、金融の世界での仕事を選んだという背景もあります。小さい頃から、家族で畑ですごした思い出がたくさんあって、農業を継ぐにあたってネガティブなイメージはまったくなかったですね。
大島 僕は長男だったこともあり、いずれ30歳くらいには後を継ごうと思っていましたが、会社員の経験を経て結局、22歳で就農を決意しました。なので、今年で14年目になります。きっかけは子育ては自分の育った地域でやりたいということと、近所のベテラン農家さんたちからいずれは頼むよ!っていう思いを聞いていたことが大きいですね。僕も幼稚園の頃からトラクターに乗っていました(笑)。
米山 僕もみなさんと同じ。いずれは後を継ごうという気持ちでした。どうせやるなら早い方がいいなと思い、調理系の学校に行ったのちに21歳で就農しました。最初は、農産物を使って食に関わる仕事をしたいと思っていましたが、農業も食も美味しいものを食べてもらい人を喜ばせるという点では繋がっていると思い、農業に専念することにしました。
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農家から見た松川町。四季折々楽しめる農風景。
──ここ松川町は皆さんにとってどんな町だと思いますか?
北沢 シンプルに果樹農園をやるにはすごく良い場所だと思います。ここは全国的にも日照時間が長く、標高も高いので昼夜の寒暖差が大きくて、果樹栽培に適しているので、とても美味しい果物ができますよ。物理的に東京と名古屋からも近いので、観光にも適した距離です。観光農園としてはとても理想に近い条件で栽培ができる町だと思っています。あとはいい意味で完成されていないので、伸びしろがたくさんあると思いますよ。
米山 そうですねー。あとはデパートがあるわけではないし、ちょっと不便なところもあるけれど、やっぱりこのアルプスに囲まれた景色が魅力だ思います。遊びでいうと、釣りやキャンプ、BBQもその辺でできたりするのは、自然が豊かなこの町ならではのいいところですよね。
大島 若手農家が多いのも特徴かなと思います。僕は「若武者」の代表をしていたこともあるのですが、皆で集まって農業に関する勉強会をしたり、皆とても熱心なんです。小学校に行って、食育の授業やイベントをしたりもしています。今、メンバーは35人くらい。この町の規模にしては、とても多いと思いますよ。
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──では、最後に旅行者に向けてメッセージをお願いします。
北沢 今年からシードルが本格始動していくので、ぜひ楽しみにしていただきたいですね。あとは、個人的におすすめの時期は春です。どうしても果樹園っていうと収穫できる時期を想像されると思うのですが、春はりんごと梨の花がめちゃくちゃきれいなんですよ! お花を見ながらのピクニックがおすすめです。あとは、松川町だけではなく、伊那谷全体を楽しんでもらいたいですね。
大島 僕の地域は松川町では珍しい水田地帯なんです。四季折々景色が変わるので、春の鏡張りの時期から、緑の絨毯、収穫時期の黄金色まで季節ごとに景色を楽しんでいただきたいですね。
あとは、うちでは奥さんと一緒に農業をしているので、女性でも農業できるよ!というのをもっと伝えていきたいですね。農業を楽しんでいる姿をいろんな世代の方にも伝えて、興味を持っていただきたいと思っています。
米山 松川町は山に囲まれているので、どこにいても違う景色が楽しめるのがいいところですよね。果物狩り以外のシーズンでも楽しみ方はいろいろありますよ。おすすめは夏の渓流釣りです。町内にもたくさん穴場スポットがありますよ。
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おおしま・たかし
会社員を経て、22歳で就農。現在、お米と干し柿の栽培を夫婦二人三脚でおこなっている。若手農家団体「若武者」の中心人物でもあり、地域の人々から愛される松川町農業のキーパーソン。平成28年、新嘗祭の献上米に選ばれたこともある実力派。
きたざわ・つよし
大手の証券会社勤務を経て、28歳で就農。観光農園「フルーツガーデン北沢」の4代目に。りんごの栽培の他に広報や営業を担当。積極的に新しい取り組みをおこない農園のファン作りを軸にアクティブに活動中。今年からは醸造所も起動させシードルの販売も開始する。
よねやま・ひろみ
調理学校を経て、21歳で就農。美味しいもので人を喜ばせたいという思いから、「質」にこだわった果樹を栽培している。こだわりの「剪定」が身を結び、25歳という若さで町内のフジ品評会では優秀賞に。日々「美味しい」果物を作るために学び続けている努力家でもある。